Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

Fragments of Mage

いちご

それは陽の光に照らしたルビーのように、深く鮮やかな赤。 親戚からもらったからとバスケットから溢れんばかりのいちごを花重から受け取ったのはつい昨日のことだ。 『1人だと持て余しちゃうし食べて食べて!』と言われたはいいものの、そのまま食べるにして…

ケーキ

「ごめんね、2人とも。在庫処分みたいなことさせちゃって」クリスマス翌日の『パティスリーサリュ』。麻尋は顔の前でぱん、と手を合わせ娘のあやめとそのパートナーである古都に頭を下げる。「謝らないでください、麻尋さん!むしろケーキを頂けて嬉しいくら…

ハロウィン

「トリックオアトリートー!」いつの間にやらバレンタインやクリスマスと肩を並べるほどのイベントとなった10月31日。仮装した人々で溢れかえる街中をそのまま切り取ったように、魔導課もオレンジと黒で彩られていた。愛らしい蝙蝠やかぼちゃの装飾の中で猫…

焼き芋

乾いた風、どこからともなく漂ってくる焚き火の匂い、色づいた木々。秋を感じさせるものは色々あるけれど。 「スーパーに焼き芋が並び始めると、秋!って感じするよね」銀杏の葉を踏みしめる2人の手の中には紙袋に包まれた温もり。今の時間に食べてしまうと…

武器

刃が月影を受けてぎらりと煌めいた。 「"眠れ"!」あやめのその声に促されるように魔力の源──聖骸は機能を停止する。その持ち主の男は悔しそうに唇を噛むと、懐に忍ばせていたバタフライナイフを手に彼女へ迫った。「くっ……!このぉ!舐めやがって!」キィン…

金色の風はセンチメンタルを連れてくる。それは夏から遠ざかった故の冷たさをその身に纏っているからだろうか。ぴゅうと駆け抜ける北風に古都は思わずウイッグを押さえる。ちょっとやそっとでは取れはしないとわかっていても、やはりこういうときは少し怖い…

ヘッドホン

「──先輩、雪丸先輩!」 ヘッドホン越しに聞こえる声に、魔導課第2部隊所属の鈴廣雪丸は後ろを振り向く。そこには駆け寄ってくる後輩、春沢銀歌の姿があった。高い位置で結われたツインテールがぴょんぴょんと跳ねる。「おー銀歌、今帰りか?」「はい!雪丸…

パーティーを抜け出して

挨拶回りばかりの退屈なパーティーなど、抜け出してしまえばいい。 「ちょ……古都!勝手に抜け出したら……」 みんなに心配かけちゃう。そう言いかけたあやめの唇を古都は人差し指で塞ぐ。 「ちょっとだけだし、大丈夫だって」 細い手首を軽く掴んで、彼はパー…

サイドテール

「古都、頼みたい仕事があるんだが、ちょっといいか」 上司である優木左京に呼び出された古都は司令官室を訪れていた。魔導課の副隊長という立場上、こういったケースは少なくない。しかし自分だけに仕事を頼まれるというのは今までにないことだった。「もち…

チョーカー

「ねえ、古都。これって変じゃないかなあ?」 桜色のカクテルドレスを身に付けたあやめは、裾をつまんでその場でくるりと回る。Aラインのシルエットがゆらゆらとひらめいた。「ん、よく似合ってるよ」古都はネクタイを軽く締め直し、目線をあやめの方に向け…

炎のような恋、水のような愛

炎と水が交わった。 河原古都──魔術界隈では「類稀なる炎使い」として有名な魔術師である。そんな彼の瞳には、操る炎と同じかそれ以上の熱が宿っていた。「……あやめ」それは偏に彼の同僚であり、上司であり──そして同級生かつ想い人にあたる巴華あやめが要因…

座る

今日の任務はハードだった、とあやめは伸びをしてベッドに座り込んだ。 「お疲れ様、あやめ」ココアで満たされたペアマグを手にした古都がその隣に腰掛ける。「はい、どうぞ」「ありがとう!……それにしても3件も出動があるなんて」休む暇もなかったよ。忙し…

流星のような、恋

恋はまるで流星のようだ。前触れもなく降り注ぎ、心を捉えて離さない。 「あっ、古都!見て見て、オリオン座だよ!」よく磨き上げられたガラス窓のような透き通った空気に、白い吐息が溶けて消えた。黒いキャンバスに散らされた無数の星があやめの柘榴色の瞳…

ゴスロリ

篠塚花重にとってのゴスロリとは、魔法である。 それは身に纏う非日常。お気に入りのクロッシェレース、甘過ぎないリボン、艶かしい黒タイツ。ふわりと膨らんだフリルが配われたスカートをひらめかせればたちまち誰もが振り向くヒロインになれる。何者にもな…

ケーキ

ウェディングドレスのように真っ白なクリームがとろりとスポンジを覆っていく。 「わああ……!相変わらずお父さんの作るケーキ、美味しそう……!」「そうかい?あやめにそう言ってもらえると自信つくなあ!」麻尋は娘のその言葉に頬を緩ませる。パティシエにな…