Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

武器

刃が月影を受けてぎらりと煌めいた。

 

「"眠れ"!」
あやめのその声に促されるように魔力の源──聖骸は機能を停止する。その持ち主の男は悔しそうに唇を噛むと、懐に忍ばせていたバタフライナイフを手に彼女へ迫った。
「くっ……!このぉ!舐めやがって!」
キィン──
金属がぶつかり合う独特の高い音があたりに響く。あやめはいつの間にか身の程もあろうかという大きさのハルバードをその右手に携えていた。軽々とその得物を扱い男の手にあったナイフを薙ぎ払うと、その喉元に切っ先を突き立てる。
「舐めているのは貴方の方です。これでもあたしは魔導課の総隊長……ある程度の戦闘技術は叩き込まれています」
さあ、まだ続けますか?ひやりとした銀の感触が男の顎をなぞる。彼は観念したように地に膝をつき、がっくりと項垂れた。

 

「ご協力感謝します」
「ありがとうございます、あとはよろしくお願いします」
警察に男を引き渡すと、あやめは軽く一礼をする。魔導課の仕事はあくまで魔術による災害への対応だ。取り調べや罪を裁くことなどは管轄外である。魔術師を確保し、無力化したあとはこうして警察に身柄を引き渡すのが通例となっていた。
とは言え。彼女は地面に転がったバタフライナイフを手に取る。その後のことが気にならないわけではない。自分たちが確保した魔術師が今後どうなるのか、無事に社会復帰できるのか。それはあやめのみならず他の魔導課メンバーにとっての関心ごとでもあった。
(……あたしには、こうして間違いを正すことしかできない)
鏡面のように磨かれた刀身に彼女の端正な横顔が映る。
(でも、せめて──あたしたちが捕らえた魔術師たちのこれからが明るいものであるよう、願うことは許されますか?)

 

無機質な銀色に反射した月は静かにあやめを照らす。
彼女は刀身を納めると、事態の報告をするため本部へと急いだ。