Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

ケーキ

「ごめんね、2人とも。在庫処分みたいなことさせちゃって」
クリスマス翌日の『パティスリーサリュ』。麻尋は顔の前でぱん、と手を合わせ娘のあやめとそのパートナーである古都に頭を下げる。
「謝らないでください、麻尋さん!むしろケーキを頂けて嬉しいくらいなんですから!」
「そうだよ、お父さん!まだ使える材料が捨てられちゃうなんてもったいないし!」
クリスマスはパティスリーが一番忙しい時期と言っても過言ではない。そしてそれ故に、在庫管理が難しい時期でもある。
「一応計算して仕入れてはいるんだけどね……足りなくなるよりは、ってつい多めに頼んじゃうんだ」
せっかくのクリスマスだし、みんなに食べてほしいじゃない?そう笑う麻尋の表情は、連日の忙しさを感じさせないくらい穏やかだ。
「その気持ち、わかるような気がします。少しでも多くの人に喜んでもらいたいですよね」
「わかってくれるかい、古都くん!嬉しいなあ、これも持っていって!」
箱詰めされたケーキの上に焼き菓子をいくつか乗せる父を、あやめは「また従業員さんに怒られるよ」と苦笑まじりに窘めるのだった。