Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

ナイショ

「おばあさんはどうしてそんなにお耳が大きいの?」

 

山を下り、小屋の主人である老婆を食らってからどれほど経っただろう。最初は老婆の皮を被って、よく訪ねてくるという孫も食べてやろうと思っていた。
はずなのに。
「お前の声をよおく聞くためだよ」
「おばあさんはどうしておててが大きいの?」
「お前の手を暖めるためだよ」
僕は今もまだ老婆の振りをし続けている。毎日毎日訪れては焦点の合わない瞳で譫言のように質問を繰り返すこの赤い頭巾に情を抱いてしまっているのだろうか。
「おばあさんのお口はどうしてそんなに大きいの?」
「お前と一緒に大きな声で笑うためさ。……ところで赤ずきんや、私も質問をしていいかい?」
赤ずきんの返事を待たずに、僕は彼女の袖を捲り上げた。白い肌に浮かんでいる無数の紫、紫、紫。
「……これは誰にやられたんだい?」
「……それはナイショよ」
虚ろなガラス玉のような瞳が僕の姿を捉えた気がした。緩慢とした動作で、彼女は僕の毛むくじゃらの耳に触れる。

 

「──ねえ、いつになったら食べてくれるの?」