Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

うさとら日記

褐色

「今年こそ、小麦色に焼きたい!」 外ではミンミンゼミのコンサート。燦々と降り注ぐ日差しに人々が辟易しながら歩いている最中、エアコンの効いた研究室でエリスが吼える。その肌は雪を思わせるくらい白く、小麦色とは程遠い。「エリス先輩、小麦肌に憧れが…

ラーメン

ラーメンとはカメレオンである。 麺の細さから味、トッピング、ベースとなるスープの出汁の組み合わせでその姿を如何様にも変える。例えば同じ醤油ラーメンでも、店によってその味わいは全く別物と言ってもいいくらい異なるのだ。「つまりそのラーメンにはそ…

うさとら日記設定

虎縞エリス(Torajima Elis) 堅苦しくて理屈っぽい喋り方と尊大な態度、長話が特徴の大学3年生。 いわゆる天才で、数々の実験から大きな成果を導き出している。 気分屋でもあり、後輩である兎月を振り回すこともしばしば。 行動分析学を専門とする河原研究室…

兎と虎と鷹と

「そういえば兎月くん、苗字はなんというんだ?」 「苗字、と言いますと」「兎月というのは下の名前だろう?」「いえ、苗字です。フルネームは兎月遊鷹、遊ぶに鳥の鷹と書いて遊鷹です。」「……鷹?」「はい、そうですけど」「兎月と言うから草食動物だと思っ…

天使

「ほら、あれが噂の虎縞エリス……」「ああ、天才で有名な……」 かつかつと学部棟の廊下を鼻歌交じりで闊歩する、金髪に白衣を身に纏った人影。その天使と見紛うような容貌の彼女を遠巻きにしながら、2人の学生は囁き合う。「ぱっと見中学生か高校生にしか見え…

ウサギ

「兎月くん、聞いたことがあるかね?月の兎が搗く餅は大層美味しいらしい」 虎縞エリスが突拍子もないことを言い出すのは珍しいことではない。兎月はすっかり慣れた様子で流そうとしたが、その内容に引っかかりを覚え聞き返す。「そんな伝説でしたっけ?元々…

マスター

ふわりと春の日差しのような芳香があたりに漂った。 「マスター、いつもの」「おや、エリスちゃん。いつもの後輩くんは一緒じゃないのかい?」「ああ、彼なら実習が終わらずに研究室に缶詰だよ」私はひと段落ついたから、こうして顔を出したわけさ。カウンタ…

ドーナツ

ドーナツの穴から向こう側を覗き込む。 「虎縞先輩?何してるんですか」「ああ、兎月くんか。何、世界を切り取って見ていただけだよ」先人は窓から見える景色を絵画のように楽しんでいたという。私もそれに倣ってみようと思ってね。虎縞エリスはドーナツを目…

「──やあ、また来たのか」 芝居掛かった大仰な所作で研究室の主──虎縞エリス先輩は僕を迎える。「一応、ここの研究室志望ですから」「ははっ、変わり者だ。虎の元にわざわざ足を運ぶ草食動物がいるとは」「草食動物って……確かに僕の名前は兎月ですけど」それ…

マグカップ

世界をマグカップ一杯に詰めたら、それは一体どんな味なのだろう。 とろけるほど甘いホットチョコレートに似ているのか、エスプレッソのように深い苦味を湛えたものなのか。あるいはミネラルウォーターに負けず劣らず無味無臭なものなのかもしれない。 「い…