Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

「──やあ、また来たのか」

 

芝居掛かった大仰な所作で研究室の主──虎縞エリス先輩は僕を迎える。
「一応、ここの研究室志望ですから」
「ははっ、変わり者だ。虎の元にわざわざ足を運ぶ草食動物がいるとは」
「草食動物って……確かに僕の名前は兎月ですけど」
それに虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うじゃないですか。僕の言葉に、秋の稲穂色の髪をした彼女はこれは一本取られたとからからと笑った。
「私は自分で言うのもなんだが優秀だ。その研究を間近で見るためにはここに入るのが一番手っ取り早い。なるほど、得心が行った」
けれど、と彼女は続ける。
「私が人に疎まれているのにはそれなりの理由があるのだよ、それでも尚近づこうと思うのかね?」

 

ちょうど自らの高いプライドが原因で虎に身を堕とした李徴のように。
私は私自身の性質により孤独な存在へと変貌を遂げたのだ。

 

大きな丸い瞳がすう、と細められる。猛獣の如きその美しくも苛烈な眼差しに、僕の背筋がぞくりと冷えた。