Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

ショートケーキ

白いドレスに赤い王冠。
煌びやかな装飾のないその佇まいが、かえって女王の風格を感じさせた。

 

あらゆるケーキが花を添えるクリスマス。ショーケースの中で出番を待つ彼女たちはどこか誇らしげで。
その中でも一際輝きを放っているのは、シンプルなショートケーキ。次々と手を引かれ祝祭の中心へと向かう姿は、花瓶に生けられた一輪の薔薇の如く気高く美しい。
グラサージュやマジパンなどでその身を飾るのもとても魅力的ではあるけれど」
軽く会釈をしてふわりと微笑む彼女からは驕りは一切感じられない。
「特別な日の素敵な思い出を添えるために、私はこのままでいたいの」
メインはあくまでケーキではなく、クリスマスという出来事そのもの。そうであるなら、私自身は簡素な方が綺麗なものが引き立つでしょう?

 

ドロップを散りばめたようなクリスマスツリーに、食卓を埋め尽くすご馳走。
今日この日が人々にとってかけがえのない日になることを祈りながら、彼女は『Merry Christmas』のメッセージカードを膝の上に置いたのだった。