Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

ハロウィン

「トリックオアトリートー!」
いつの間にやらバレンタインやクリスマスと肩を並べるほどのイベントとなった10月31日。仮装した人々で溢れかえる街中をそのまま切り取ったように、魔導課もオレンジと黒で彩られていた。愛らしい蝙蝠やかぼちゃの装飾の中で猫の手の仕草をするのは、魔導課の総隊長である巴華あやめだ。その頭からは黒猫の耳がぴょこんと飛び出している。
「お菓子くれなきゃ悪戯するにゃん♪なんてね!」
その言葉を向けられた吸血鬼姿の青年──河原古都はマントの内から袋入りのチョコレートを取り出し、彼女の手のひらに落とした。
「はい、どうぞ」
「……古都ってこういうところ、抜け目ないよね」
「ん、悪戯したかった?」
「そういうわけではないけど」
まあ、オレとしては悪戯も大歓迎だけどね?
耳元で低く囁かれたあやめは、格好も相まって増した古都の色香に頬を赤らめる。

 

それを悟られまいと照れ隠しに「……猫パンチ!」と彼の肩を叩いたのだった。