Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

ヘッドホン

「──先輩、雪丸先輩!」

 

ヘッドホン越しに聞こえる声に、魔導課第2部隊所属の鈴廣雪丸は後ろを振り向く。そこには駆け寄ってくる後輩、春沢銀歌の姿があった。高い位置で結われたツインテールがぴょんぴょんと跳ねる。
「おー銀歌、今帰りか?」
「はい!雪丸先輩もお疲れ様です」
何を聞いてるんですか?頭一つ分小さい位置にある銀灰の瞳が雪丸を覗き込む。彼は耳からヘッドホンを外すと、銀歌の首の後ろからそれをかけてやる。
「……これって、ピアノ?」
「そ、昔弾いてたことがあってな。その名残で今もよく聞いてるんだよ」
「!雪丸先輩、ピアノ弾けるんですね!」
「あんまりそんなイメージないだろ?どっちかっていうとギターの方が弾いてそうってよく言われる」
戯けた調子で肩を竦める雪丸に、銀歌はくすくすと笑いを漏らした。
「よかったらピアノ、今度聞かせてください!」
「おう、気が向いたらな」

 

ヘッドホンを手渡すときに指と指が触れ合う。
銀歌の頬に体温が集まっていくのに、目の前の彼は気づいていないだろうか。