Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

褐色

「今年こそ、小麦色に焼きたい!」

 

外ではミンミンゼミのコンサート。燦々と降り注ぐ日差しに人々が辟易しながら歩いている最中、エアコンの効いた研究室でエリスが吼える。その肌は雪を思わせるくらい白く、小麦色とは程遠い。
「エリス先輩、小麦肌に憧れがあるんですか?」
「もちろんあるともさ!あの健康的な褐色の肌、まさに夏の象徴ではないか!
けれど何故だ!何故私はこんなに照りつける太陽の下、夏休みを満喫せずに研究室に引きこもっているのだろう!このままではあの小麦色がまた憧れのままで終わってしまう!」
「それは夏休みが研究や実験のためにまとまった時間を取れる貴重な期間だからでしょうね」
「それはわかっているのだよ、兎月くん。そしてそのような日々を過ごすのも嫌いではない。けれどやはり私は!日焼けをしたいのだ!」
真面目な顔をしたエリスの金髪が窓ガラス越しの光を受けてきらきらと煌めく。
「じゃあプールとか海とかに出掛けるっていうのはどうです?何も夏休み中ずっと研究室に縛り付けられてるわけじゃないですし」
「!ナイスアイデアだ、兎月くん!どうせなら研究室メンバー全員を連れて旅行にしてもいいかもしれんな!」
今からでも予約が取れるところはあるだろうか、いっそのこと日帰りで行ってくるのもいいかもしれない。ぶつぶつと呟きながら旅行の構想を練るエリスに、兎月はふと気がついた事実を問いかける。
「そういえば、エリス先輩って体質的に焼けるんですか?」
その疑問に、エリスはぐっと親指を立ててこう言った。

 

「うむ、全く焼けん!赤くなってそのまま落ち着くだけだ!」