秋
金色の風はセンチメンタルを連れてくる。それは夏から遠ざかった故の冷たさをその身に纏っているからだろうか。
ぴゅうと駆け抜ける北風に古都は思わずウイッグを押さえる。ちょっとやそっとでは取れはしないとわかっていても、やはりこういうときは少し怖い。せっかく姉に頼んで女性に仕立ててもらったのだ。あやめに会う前にそれを崩してしまうのは避けたい。
ボルドーのアイシャドウが引かれた目蓋をそっと伏せる。マッチ棒が乗りそうなほど長い睫毛が僅かに揺れた。
「古ー都!」
背中に感じる、慣れ親しんだ体温。ぎゅ、と腰に回された腕に手を重ね、古都は表情を緩めた。
「待たせちゃったね、ごめんね」
彼女はたたた、と古都の正面に回ると、その手を取って両手で包む。冷え切った指が徐々に感覚を取り戻していく。
「相変わらず綺麗」
「あやめこそ、今日も可愛いよ」
古都があやめの顔に触れながらそう笑いかけると、彼女の頰は朱に色づく。
どちらともなく指を絡ませ、体温を分かち合う。だんだんと混ざっていく温度が2人の境目を溶かしていく。
「それで、今日この格好で来てほしいって言ってた理由は?」
「そうそう!実はね、この間お店ですっごく可愛いマフラーを見つけたんだ!女の子の古都に絶対似合うと思って」
だからお願いしたの。迷惑だった?不安そうにこちらを覗き込む彼女に、古都はまさかと首を横に振った。むしろどんな自分でも受け入れてもらえているのだと嬉しく思うくらいだ。
ひらりひらりと銀杏の葉が雪のように降り注いでいる。寒さに身を寄せ合って歩くこの黄金の絨毯に覆われた煉瓦の歩道は、まるでバージンロードのようで。
そう思うと、物寂しいこの季節も案外悪くないと古都は思うのだ。
いつか来るその日に、想いを馳せることができるから。