Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

炎のような恋、水のような愛

炎と水が交わった。

 

河原古都──魔術界隈では「類稀なる炎使い」として有名な魔術師である。そんな彼の瞳には、操る炎と同じかそれ以上の熱が宿っていた。
「……あやめ」
それは偏に彼の同僚であり、上司であり──そして同級生かつ想い人にあたる巴華あやめが要因であった。彼女の華奢な腰に腕を回して彼は自分の方へと引き寄せるが、嫌がる素振りはない。むしろその行為を肯定するかのようにあやめは身を寄せ、上目遣いで古都を覗き込んだ。
「誰も、いないよ?」
そのあどけない仕草は、古都の心を捉えて離さない。睫毛が触れ合う距離にまで近づいて、そっと唇を重ねる。

 

古都と時を同じくして魔術師の才能を開花させたあやめは、防御に特化した水の魔術師である。攻撃を得意とする古都とは魔術の相性が良く、よく2人でバディを組んで活動していたものだ。2人組で行動することが少なくなり、古都があやめの補佐をするようになった今でもその連携は変わらない。恐らく魔術の相性以上に、性格の親和性が高かったのだろう。

 

古都があやめに惹かれ始めたのはいつ頃だっただろうか。気がついたら彼の目線の先には彼女がいた。常に懸命で、真っ直ぐで、誰かを救うためならどんな努力も厭わない──そんなあやめが眩しくて、心の底から力になりたいと思ったのだ。
ちょうど、皆の渇きを癒す水に焦がれる炎のように。

 

刹那の口づけの後、2人はどちらともなく額をくっつける。吐息が交じる。互いの魔力を閉じ込めたペンダントがこつんとぶつかって揺れた。
「……左京さんに怒られちゃうな、『公私混同も大概にしろ』って」
古都は師匠であり、自分とあやめ共通の上司でもある人物を思い浮かべて苦笑する。自分の感情を制御できずに仕事場でキスをしたことがバレたらどうなることか。
「そのときはあたしも一緒に怒られてあげる」
許した時点で同罪だしね、なんて彼女が笑うものだから。彼はあやめの額に唇を落とし、その髪をくしゃりと撫でた。
「じゃあ“そのとき”はよろしくお願いします、総隊長」
「任せなさい、副隊長」

 

蛍光灯の明かりに照らされて、ペンダントの中の紅と蒼がゆらりと揺らめいた。