Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

黒髪

宵闇で染め上げた髪がふわりと北風に舞った。

 

街路樹は鮮やかに化粧をし、通りに金糸と紅の絨毯を敷き詰める。琥珀は踊るように天鵞絨のスカートを翻し、待ち人ににっこりと微笑みかけた。
「久しぶりね、楓」
「お久しぶりです、姉さん。今年も綺麗に染まりましたよ」
笑みを向けられた青年は緩やかに一礼すると、片手で持つには些か大きすぎる紙袋を姉へと差し出す。
「これ、今年の紅葉です。姉さんの魔法でメープルシロップにしてあげてください」
「ありがとう。もう紅葉に色をつける時期は過ぎたのかしら?」
「ええ、まだ少し青い葉が残ってはいますが繁忙期は過ぎました」
それならよかった。琥珀は紙袋から紅葉をひとひら手に取ると、自らの濡れたような黒髪にそっと挿す。夜空の一番淡いところを切り取ったような黒に映える眩しいほどの赤は、さながら世界を塗り潰そうとする夜陰に抗って燃える夕焼けのごとく。

 

揺れるガス灯の明かり。
2匹の黒猫が黄金色に照らし出された雑踏の中に掻き消えた。