Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

ケーキ

ウェディングドレスのように真っ白なクリームがとろりとスポンジを覆っていく。

 

「わああ……!相変わらずお父さんの作るケーキ、美味しそう……!」
「そうかい?あやめにそう言ってもらえると自信つくなあ!」
麻尋は娘のその言葉に頬を緩ませる。パティシエになって久しいが、やはり作ったケーキを褒められるのは何物にも代え難い喜びだ。それが愛して止まない娘からの賛辞であれば、尚更。
スポンジ全体にクリームを塗ると、上にカットしたフルーツを彩りよく乗せていく。果物が鮮やかな花を咲かせる。その様子に、あやめはまた目を輝かせた。
「すごーい!花束みたい!」
「今日はあやめの誕生日だからね、特別」
興奮を抑えきれないのか手をバタバタさせ、くるくるとその場で回る幼い少女。彼女が生まれてくれた幸せを噛み締めながら、麻尋は仕上げに取り掛かる。

 

ナパージュ煌めく季節の果物のショートケーキ。
年の数の蝋燭を吹き消して、
口いっぱいに頬張る姿を目に焼き付けよう。
君が僕から離れていってしまうまで、離れてからも
ずっと、ずっと思い出せるように。