Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

マフラー

白い息が目の前で溶けて、消えた。

 

夏は私の横を駆け抜けて、たちまち冬を連れてきた。秋色に化粧していた街並みは既にお色直しを終え、青白いイルミネーションとどこまでも透明な空気を身に纏っている。
私は手に提げたビニール袋の中をそろりと覗き込む。そこには不規則な編み目で構成された真っ赤なマフラー。何度確認してもその不恰好さは変わることなく。知らず私の口からは再び溜息が溢れた。

 

けれどここまで来てしまったのだ。渡さなくては話が始まらない。

 

私は頬を軽く叩き、気合いを入れる。それを見計らったかのように、スマホの軽快なメロディが着信を告げた。
「──もっ、もしもし!」
果たして、この声の震えは寒さだけが理由だろうか。
電話越しの声が、言葉が、私の胸を高鳴らせる。目線を上げると、手を振る君の姿。首元で揺れる、綺麗な手編みのマフラー。

 

その瞬間、行き場をなくした袋の中身がずしんと重みを増して、私の手から離れていった。