Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

ゴスロリ

篠塚花重にとってのゴスロリとは、魔法である。

 

それは身に纏う非日常。
お気に入りのクロッシェレース、甘過ぎないリボン、艶かしい黒タイツ。
ふわりと膨らんだフリルが配われたスカートをひらめかせれば
たちまち誰もが振り向くヒロインになれる。
何者にもなれない自分が世界の中心となることは
花重にとってまさに奇跡そのものであった。

 

ずっと、誰かに自分のことを見てもらいたかった。

 

親は花重に無関心だったし、自分のことを認めてくれる人間も少なかった。
故に花重は承認欲求が強い。そのことは自分でも自覚している。
そんなときに出会ったのがゴスロリだ。
その格好をするだけで人に注目してもらえる。それが楽しくて、嬉しくて。
気づけば彼女は休みの日にゴスロリを着て出かけることが習慣となっていた。

 

きっと魔法をかけてもらったシンデレラもこんな気持ちだったのだろう。

 

彼女はお伽話の主人公に想いを馳せる。
ガラスの靴の代わりに編み上げブーツを、ティアラではなくヘッドドレスを身につけて。