ネコ
それはどこまででも深く潜れそうなキトゥンブルー。
よたよたと頼りない足取りで白い毛玉が板張りの廊下を歩く。
一歩踏み出す度に、姉は歓声を上げた。
「可愛い!可愛いねえ、この子!」
「姉ちゃん、こいつが来てからそれしか言ってねえな」
「うるさい、可愛いことには変わりないんだからいいでしょー?」
普段口喧嘩のときに見せる圧倒的な語彙力はどこへ行ってしまったのか。しかし、彼女のその感想には僕も概ね同意だった。
春の綿毛を思わせるふわふわの毛、ビー玉のようにくりくりとした瞳。短い尻尾はこれでもかと言うくらいに高く立てられ、今は隠れて見えない柔らかな肉球は綺麗な桜色をしている。
「それで、名前は決めたの?」
「ふっふーん!ばっちり! 名前ね、"空"にしようと思うの!この子の目、すっごく澄んだ空色だし!」
ねー、空。ころころと廊下を転がり回る子猫へ嬉しそうに声をかける姉に、僕はある事実を告げられずにいた。
その目の色は、子猫のときだけに現れるものだということを。