Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

愛の在り処

自身の求める愛なるものが那辺にあるのか、僕には凡そ見当もつかない。

 

誰にともなく僕がその呟きを空に投げると、少し離れたところに居た君は不意に振り向き悪戯っぽく笑った。
「愛の在り処は此処ではない何処かではないのよ」
ととと、と彼女は僕に向かって駆け寄ると、その指が僕の胸を指し示す。
「貴方と、相手の心の内に存在するものなの。解っていて?」
「では、既に僕の中に眠っているということかい?」
「そうよ、貴方が運命の相手と出逢ったそのとき、目を覚ますのよ」
それはまるで、雪解けと同時に芽吹く蕗の薹のように。
そのときが楽しみね。スカートを翻しながら夕陽の街並みに溶けていく君の姿を見送り乍ら、僕は彼女に指差された心の臓の辺りに手を当てた。
とくん、とくん。
何時もより駆け足になっているその鼓動を感じつつ、目を閉じる。

 

願わくは、僕と同じ感情が君にも眠っていることを。