Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

焼き芋

乾いた風、どこからともなく漂ってくる焚き火の匂い、色づいた木々。
秋を感じさせるものは色々あるけれど。

 

「スーパーに焼き芋が並び始めると、秋!って感じするよね」
銀杏の葉を踏みしめる2人の手の中には紙袋に包まれた温もり。今の時間に食べてしまうとご飯が入らなくなるとわかっていても手にしてしまう、悪魔の食べ物だ。
袋を開け、真ん中から2つに割ると白い湯気がふわりと立ち上る。蜜を宿して輝く金色が「早く食べて」と呼びかけているような気がした。
行儀悪いけど、冷める前に食べちゃおうか。古都の言葉に促されるようにあやめが一口齧り付くと、口の中いっぱいに広がる優しい甘み。その豊かな味わいにあやめの表情は無意識に綻ぶ。
「おいしい!」
「この寒さの中で食べる焼き芋は格別だよなー」
体を包む空気はぴりりとひりつくくらいに冷え切っていて、しかしかえってそれが焼き芋の温かさを引き立てた。その温度は心も体も暖めてくれるけれど──

 

両手が塞がって彼と手が繋げないのを、彼女はちょっとだけ残念に思うのだ。