ミライ
私は、
砂糖菓子で出来た宝石の甘美さを知らない。
夜闇を汲み取ったカップ一杯の苦味を知らない。
太陽をいっぱい浴びて黄色いドレスを纏った果実の酸っぱさも
茶柱の立った眉をひそめるような渋味も
さらさらと砂のように指先から零れる塩っぱさも
私は、知らない。
いい子ね、と
叔母さんはよく私にキャラメルをくれたものだけれど
私にとってそれは、口の中で形を溶かしていくちょっと変わった玩具程度の認識しかなく。
碌な反応を見せない私はさぞかしつまらない子どもだっただろうと思う。
「……なんてことを言ったら、君は信じる?」
目の前の相手はさして興味がないように、自分の分の紅茶にミルクを注ぐ。
「まあ、そうですね。先輩、何を食べても無反応ですし、そう言われても驚きはしませんよ。」
ただ、と彼は続ける。
「食事は退屈そうですよね。」
彼の言葉に、私はそうねと相槌を打つ。
「けれど食べることは好きよ?」
「そりゃまたどうして?」
「だって、未来の自分を作ってる感じがするじゃない?」