Hütte on the moon.

いだてんぐの小説置き場です

お菓子

世界と云うものは、貴方が思うよりもずうっと狭隘で冷酷で……それでいてどんなものよりも甘美なの。
そう、まるで満天の星空を映した、一滴の甘露のように。

 

そんな世界で生きるということは、甘い甘いキャンディを求めて延々と彷徨うのと同じ……その蠱惑的な甘さを味わった人間は、二度と舐める前には戻れない。
見苦しく、意地汚く、次の飴玉を探して這いずり回る。
何時貰えるか──いえ、手に入るかどうかすら定かではない砂糖菓子を餌に振り回されるのが人生だとしたら……それでも貴方は生きることを選ぶのかしら。

 

「……生きますよ。どんなにみっともなくったって、生にしがみついていくと決めたんです、俺は」
哀れね、そして泥臭い。
「ああ、そうですか。俺のことを哀れんでくれるんなら、この絡まってる蔓をどうにかしてくれませんかね。これじゃあ、碌に動けやしない」
あら、これは失礼。人間が来るのは久々だったものだから、つい試したくなって。
──改めて。

 

ようこそ、魔法のお菓子屋『琥珀糖庵』へ。
歓迎はしないけどお持て成しはするわ、「綺羅崎あやと」くん?